「餌をあげただけで訴えられた」韓国キャットマム戦争のリアル
韓国の国会電子請願サイトに、正反対の主張を掲げた二つの請願が相次いで提出されました。一つは野良猫への無断給餌を制限すべきだというもの、もう一つはその制限に反対するものです。どちらも五万人以上の賛同を集め、そろって国会の委員会に送られました。同じ社会で暮らす人々がここまで正反対の結論に達するのはなぜか、その背景を追ってみます。
猫の餌をめぐる衝突が日常化している
韓国では猫の世話をする人々を「キャットマム」と呼びます。ソウル市と動物権利団体カラが2024年に182人を対象に行った調査では、95.1パーセントが女性で、平均年齢は52.8歳でした。一人あたり平均18.3匹の猫を世話し、収入の平均21.8パーセントを猫の世話に充てているという結果も出ています。決して片手間の趣味ではなく、時間もお金もかなり費やしている人たちだということが、この数字から見えてきます。
対立の中心にあるのは餌皿です。花壇や駐車場に置かれた餌皿を近隣住民が片付け、しばらくすると同じ場所にまた餌皿が置かれる。この繰り返しが器物損壊などの告訴合戦にまで発展するケースも珍しくありません。ソウルのある団地では、給餌を大幅に制限する運営規定をめぐってキャットマムと入居者代表会が衝突し、代表がストーキング処罰法違反の疑いで告訴される事態にまで発展しました。
韓国と日本、対応の違いはどこにあるか
韓国の農林畜産食品部は今年、給餌ガイドラインを改定しました。不妊去勢手術と給餌場所の衛生管理を伴うこと、公共の場や他人の土地では管理者の同意を得ることなどが盛り込まれていますが、あくまで勧告にとどまり、違反しても罰則はありません。これに対して日本では、横浜市磯子区が発祥とされる地域猫制度が広く知られています。1999年に区独自のガイドラインが作られ、猫好きと猫が苦手な住民の双方が納得できる着地点として、時間と場所を決めた給餌、不妊去勢手術、周辺清掃をセットにした仕組みが確立しました。
この地域猫の考え方は他の自治体にも広がり、現在は多くの自治体が独自の条例やガイドラインを持っています。餌やり自体を全面的に禁止する法律は国レベルでは存在しませんが、条例で規制している自治体では、勧告や措置命令に従わない場合に二万円から五万円程度の過料が科されるケースがあります。ただし実際に過料が適用される例はまれで、あくまで話し合いを促すための仕組みという性格が強いといえます。
| 項目 | 韓国 | 日本の一部自治体 |
|---|---|---|
| 法的位置づけ | ガイドライン、罰則なし | 条例に基づく措置命令、地域による過料あり |
| 合意形成の仕組み | 個人間の交渉が中心 | 地域猫制度として住民合意を前提 |
| 給餌の条件 | 時間と場所の管理を推奨 | 時間と場所を決めた給餌が制度の前提 |
なぜ話し合いで解決しにくいのか
社会心理学ではこうした対立を「道徳的信念」という枠組みで説明します。キャットマム側は命を守ることが正しいと考え、反対する側は他人に迷惑をかけないことが正しいと考える。どちらも自分の立場を単なる好みではなく道徳の問題だと捉えているため、相手の意見は単なる違いではなく誤りとして受け止められ、妥協が難しくなります。韓国の高密度な集合住宅環境では、花壇や駐車場を数十から数百世帯が共有しているため、一人の行動の影響が多くの住民に及びやすいことも、対立を増幅させる要因になっています。
生態系への影響を懸念する声も加わっています。済州島のマラ島では0.3平方キロメートルほどの島に100匹を超える猫が生息し、天然記念物の海鳥を脅かしているという指摘が出ています。一方で給餌を支持する側は、猫を人為的に減らせばネズミが増えるなど別の不均衡が生じかねないとして、給餌を止めるのではなく不妊去勢手術による個体数管理を続けるべきだと主張しています。
調査データが示す実像
| 調査項目 | 数値 |
|---|---|
| キャットマムに占める女性の割合 | 95.1パーセント |
| 平均年齢 | 52.8歳 |
| 一人あたり平均世話匹数 | 18.3匹 |
| 収入に占める世話費用の割合 | 21.8パーセント |
今後の落としどころ
横浜の地域猫制度が示しているのは、対立をゼロにすることではなく、給餌という行為に時間、場所、後片付けというルールを組み込むことで、双方が受け入れられる形に落とし込んだという点です。韓国でも同様の枠組みを作ろうという議論はありますが、ガイドラインに強制力がない限り、同じ効果は期待しにくいという指摘があります。地域猫という言葉自体が日本発祥であることを踏まえると、韓国の状況は制度設計の前段階にあるとも言えそうです。
よくある質問
Q1. 韓国では野良猫に餌をやること自体は違法ですか。
違法ではありません。ただし他人の土地に無断で給餌施設を設置することは別問題として扱われます。
Q2. 日本の地域猫制度は全国共通の法律ですか。
いいえ、全国一律の法律ではなく、自治体ごとの条例やガイドラインとして運用されています。
Q3. 地域猫活動を始めるには何が必要ですか。
自治体によって異なりますが、横浜市の場合は複数の住民による活動組織を作り、区の窓口に相談することが基本になります。
Q4. 給餌をめぐるトラブルで最も多い法的問題は何ですか。
韓国では器物損壊での告訴が最も一般的で、給餌施設を壊した側と土地を無断使用された側が互いに訴えるケースが多く見られます。
Q5. 猫の個体数は実際に減っているのですか。
ソウル市内の推定生息数は2013年の約25万匹から昨年は約9万匹に減少したとされていますが、地域による偏りは大きいと見られます。
Q6. 生態系への影響はどの程度確認されていますか。
マラ島や乙淑島など特定の地域で野鳥への影響が指摘されていますが、全国的な統計として確立された数値はまだ限られています。
Q7. 対立を減らすために個人でできることはありますか。
決まった時間と場所での給餌、食べ残しの片付け、不妊去勢手術への協力など、地域猫制度が前提とする基本的なルールを個人レベルで実践することが第一歩になります。

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