韓国コーヒー戦争を生き抜いたブランドたち、次の戦場は日本だ

ソウルの街を少し歩けば、次のブロックにもまた別のコーヒーチェーンの看板が見えてくる。同じ通りに三つも四つも安いコーヒーの店が並び、しかも大抵どこも人が入っている。韓国という国は、コーヒーブランドにとって天国のような市場であると同時に、ブランド同士が値段と立地で殺し合う戦場でもある。そんな国内事情の反動なのか、ここ最近、韓国の格安コーヒーチェーンがこぞって海外に目を向け始めている。


筆者自身、数年前にソウルの弘大や江南を歩いていて驚いたことがある。半径二百メートルほどの間に、メガMGCコーヒー、コンポーズコーヒー、ペクダバン、そしてスターバックスまでもが同時に視界に入ってくるのだ。しかもどの店にも列ができている。日本の感覚からすると異様なほどの密度だが、韓国ではこれが日常の風景になっている。テイクアウト中心で回転が速く、価格は千五百ウォン前後、日本円にして百五十円ほどからという店も珍しくない。この価格破壊のスピード感こそが、韓国の格安コーヒー市場を世界でも類を見ない激戦区に押し上げてきた原動力だった。

色とりどりの看板やロゴが並ぶ、コーヒーを求める人々の列


なぜ今、海外なのか

背景にあるのは単純な話だ。国内の出店余地がほぼ尽きかけている。主要商圏にはすでに複数ブランドの店舗が密集し、新規出店だけで売上を伸ばすのが難しくなった。加えて豆や乳製品の原材料価格が上がり、ウォン安の影響で輸入コストもかさむ。薄利多売という韓国式の勝ちパターンそのものが、限界に近づいているというのが業界の共通認識になっている。実際、マメット珈琲は今月からアイスアメリカーノを値上げし、ザベンティやペクダバンも一部メニューの価格を上げるなど、格安を売りにしてきたブランドが軒並み価格改定に踏み切っている。


8月、東京に上陸するK格安コーヒー

こうした流れの中で、いよいよ日本市場が本格的な舞台として動き出した。ペクダバンは今年8月、東京に日本1号店をオープンする計画を確定させ、英語表記を前面に出した新しいブランドロゴまで公開している。年内には2号店の出店も視野に入れているという。メガMGCコーヒーは昨年、現地法人メガMGCジャパンをすでに設立しており、進出の時期と規模を検討している段階だ。フィリピンで17店舗を展開するペクダバンに続き、モンゴルで店舗網を広げてきたメガMGCコーヒーも、いよいよ成熟した日本市場に挑む形になる。ちなみにマメット珈琲はすでに日本国内で店舗を運営しており、先行して現地の反応を探っている。


ブランド 日本進出状況 その他海外展開
ペクダバン 8月東京1号店確定、年内2号店予定 フィリピン17店舗運営中
メガMGCコーヒー 現地法人設立済み、時期未定 モンゴル展開中、米国も検討
マメット珈琲 既に日本国内で営業中 先行して現地反応を確認
ザベンティ 計画なし 米国ラスベガス1号店を計画


コンビニ百円コーヒーの国で戦えるか

ただし、日本市場はこれまでの東南アジアや中央アジアとは事情が異なる。コンビニコーヒーがどこでも百円台で買え、ドトールやコメダ珈琲店のような中価格帯チェーンも既に生活の一部として根付いている。韓国国内で通用した圧倒的な安さという武器は、日本ではそのままでは効きにくい。実際に業界関係者も、コーヒー自体で差別化するのは難しいと認めており、なぜ韓国ブランドを選ぶ理由があるのかを現地消費者に納得させるメニューと体験づくりが成功の鍵になると語っている。

日本の読者からすると、コンビニのレジ横で百円台のコーヒーが買え、駅前にはドトールやタリーズ、少し奥にはコメダ珈琲店のようにゆったり座れる喫茶店文化まで揃っているのだから、わざわざ韓国発の格安チェーンを選ぶ理由が最初は思いつきにくいかもしれない。しかし韓国式カフェの強みは、価格そのものよりも一杯あたりの量の多さと、注文から受け取りまでの速さ、そしてドリンクの種類の豊富さにある。出勤前の数分でサイズの大きい一杯を受け取れるという体験は、じっくり座って飲む文化とは別の需要を掘り起こす可能性がある。実際に各社が出勤時間帯の購買データをもとに専用アプリの開発を進めているのも、味の勝負ではなく体験と利便性の勝負に持ち込もうとしている表れだろう。


価格はどう決まるのか、モンゴルの事例から

メガMGCコーヒーのウランバートル店では、アメリカーノ一杯が七千トゥグルグ、日本円で約二百八十円ほどで販売されている。韓国国内より高いが、現地の物価水準からすれば十分に手頃な価格帯だ。これは為替を単純に当てはめた数字ではなく、輸送費や通関費、現地賃料まで踏まえて逆算された価格であり、日本進出でも同様の計算が必要になるとみられる。


もう一つ見逃せないのが、コーヒーという商品そのものの弱さだ。ラーメンやキムチのように韓国という国と分かちがたく結びついた食文化であれば、Kフードというブランドイメージだけで一定の集客が見込める。しかしコーヒーはどの国にもすでに根付いた飲み物であり、韓国産という物語だけでは日本の消費者を動かしにくい。だからこそ各社は、味そのものよりも量やスピード、メニューの豊富さといった体験価値で勝負しようとしている。


各社の温度差が示すもの

出店計画にも温度差がある。ペクダバンはすでに8月という具体的な時期を発表し、英語ロゴまで刷新して本気度を示しているのに対し、メガMGCコーヒーは法人設立から一年以上が経ってもまだ出店時期を明言していない。慎重に市場調査を重ねているのか、それとも国内の値上げラッシュへの対応に追われて手が回っていないのか、外からは判断がつきにくい。ザベンティに至っては日本ではなくアメリカのラスベガスを次の拠点に選んでおり、同じ格安コーヒーというカテゴリーの中でも各社の戦略はかなり分かれている。この温度差自体が、日本市場がそれだけ攻略が難しいと見られていることの裏返しなのかもしれない。

結局のところ、この海外進出ラッシュがただの話題づくりで終わるか、それとも日本の日常に新しい選択肢として根付くかは、最初の数店舗がどれだけ現地の生活動線に食い込めるかにかかっている。韓国国内の激しい競争を勝ち抜いてきたブランドの底力が試されるのは、むしろここからだ。

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