今回のワールドカップ、日本ではABEMAの無料生中継がありません。全104試合の配信権はDAZNが独占しており、無料で見られるのは日本代表の試合だけです。一方、お隣の韓国では、Naverの配信プラットフォーム「チジク」が全試合を無料で生中継し、結果的に韓国国内で唯一のオンライン観戦手段となりました。この状況の違いが、チジクにとって思わぬ追い風になったようです。

決勝の同時接続は84万3000人でした

Naverによると、7月20日に行われたワールドカップ決勝スペイン対アルゼンチン戦は、チジクで最高同時接続者数84万3000人を記録しました。韓国代表のグループリーグ3試合を除けば、大会期間中で最も高い数字です。決勝という一試合限りのイベントでこの数字が出た点は、韓国代表戦以外でも十分な集客力があったことを示しています。

さらに驚くのは韓国代表戦の数字です。先月25日に行われたグループリーグ第3戦、韓国対南アフリカ戦では494万人という、チジクのサービス開始以来の最高記録を打ち立てました。2位は韓国対チェコ戦の482万5000人、3位は韓国対メキシコ戦の478万人と、韓国代表戦が軒並み上位を占めています。

チジクとは何か

チジクは2024年5月に正式リリースされた、Naverが運営する比較的新しいライブ配信プラットフォームです。日本で例えるならニコニコ生放送やABEMAに近い位置づけですが、ゲーム実況やeスポーツ中継を中心に成長してきたサービスで、大型スポーツイベントを本格的に扱うのは今回が実質的に初めてでした。ワールドカップ以前の最高記録は、昨年11月のリーグ・オブ・レジェンド世界選手権中継時の76万人だったことを踏まえると、今回の数字がいかに突出しているかが分かります。

月間利用者数は248万人増加しました

アプリ・決済データ分析企業ワイズアップ・リテールの集計によると、ワールドカップが開幕した6月のチジクの月間アクティブユーザー数は524万人でした。5月の276万人から248万人増加した計算で、サービス開始以来の最高値です。韓国放送広告振興公社の調査によれば、韓国の成人1000人のうちストリーミングでワールドカップを視聴したと答えた人は16.6%で、今年2月のミラノ・コルティナ冬季五輪時の8.6%から8ポイント増加しています。

指標 数字
決勝戦最高同時接続者数 84万3000人
韓国戦最高同時接続者数(対南アフリカ) 494万人
6月の月間アクティブユーザー数 524万人
ワールドカップ関連クリップ累計再生数 約10億回
勝敗予測サービス参加者数 約240万人

日本の状況と比べてみると

今大会でABEMAが中継権を持たなかった背景には、DAZNが全104試合の配信権を独占取得したという事情があります。日本国内での中継権料は約350億円に達したとされ、電通グループが獲得しました。当初FIFA側は400億円規模を提示していたとも報じられており、放映権料そのものが高騰し続けている実態がうかがえます。こうした高額な権利料を回収するには、無料放送よりも有料会員モデルの方が事業として成立しやすく、今大会でDAZNが独占という形になった一因とも考えられます。

参考までに、ABEMAが全64試合を無料生中継した2022年カタール大会では、配信期間中の週間利用者数が3409万人に達し、それまでの1000万人台後半から急増しました。日本代表戦が行われた日には、ABEMA全体の1日の視聴者数が1000万人を突破し、開局以来最高を記録したこともあります。つまり日本でも、ワールドカップが配信サービスの利用者を一気に押し上げる力を持つことは、過去に実証済みだったわけです。

今回はその機会がDAZNという有料サービスに移った形ですが、韓国ではチジクという無料プラットフォームがその役割を担い、結果として爆発的な利用者増につながりました。同じスポーツイベントでも、どの配信形態が受け皿になるかによって、成長する企業がまったく変わってくるという点は興味深い対比です。

配信映像だけではありません

中継映像に加えて、Naverが運営するショート動画サービス「クリップ」も好調でした。試合のハイライトシーンを素早く提供したことで再生数が伸び、大会開幕から今月19日までにNaver上で生成されたワールドカップ関連コンテンツは約6万件、累計再生回数は約10億回に達しました。配信者による二次創作的な放送も約2000人が1万2300本近く制作し、公式中継映像に解説やチャットを加えた独自コンテンツとして人気を集めています。単に試合を映すだけでなく、配信者が実況やリアクションを加えることで、テレビ観戦とは違う一体感が生まれた点も利用者増加を後押ししたと見られます。勝敗予測サービスにも約240万人が参加しており、視聴だけでなく参加型のコンテンツとして楽しむ利用者層も一定数いたことがうかがえます。

一時的な特需で終わらせないために

チジクは7月2日に開幕したeスポーツの祭典「eスポーツワールドカップ2026」の全種目を単独生中継しており、ワールドカップで得た勢いをそのまま維持しようとしています。Naverによれば、7月1日から19日までの累計視聴者数は1684万人、累計再生回数は2962万回に達しました。ただし業界関係者からは、ワールドカップという一過性の特需で終わらせないためには、チジク独自の看板コンテンツを複数確保し、継続的に提供する必要があるという指摘も出ています。

ニコニコやABEMAと比べてどうなのか

規模だけを単純比較すると、チジクの数字はまだニコニコ動画やABEMAが持つ利用者基盤には及びません。ただし、サービス開始からわずか2年強でここまでの記録を打ち立てた点、そして大型スポーツイベントを安定して運営しきった点は、今後の伸びしろを考える上で参考になります。日本の配信市場でも、単一の大型イベントをきっかけに利用者基盤が一段階シフトする現象はABEMAの事例で確認されており、チジクが今後も同様の道をたどるかどうかは、韓国の配信市場の勢力図を占ううえで注目に値します。特に今回のように無料かつ唯一の選択肢というポジションを一度でも確立できると、そこで得た利用者が次のイベントでも戻ってくる可能性が高まるため、単発の特需で終わるか定着するかの分かれ目は、次にどんなコンテンツを用意できるかにかかっていると言えそうです。

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